Operaと電子書籍と私
「Operaの中の人」だった私の個人の興味と生業が大きく電子書籍にシフトして、はや数ヶ月経ちました。
とは言っても電子書籍の方はまだ立ち上げ段階ですが、今後大きく舵取りをしていくにあたって、別れた男のことは清算(笑)ではないですが、私にとってOperaとは何だったのかを改めて振り返ってみたくなりました。その中で、今の私がなぜ電子書籍に向いているのかに繋がるおぼろげな「線」が見えてきた気がします。
いつか自分のコアを見失いそうになった日に読み返し、初心を思い出すためにも記しておきます。
以下の内容はあくまでもOperaに長くコミットしてきた1ファンの私が感じたことであることをご了解ください。当然ながら、Operaやヨンの立場を代弁する意見ではありません。どれもこれもOperaの中の人じゃなくなったからこそ、遠慮なく言えることです。
なぜ、Operaが好きなのか?
OperaはWebの力を多くの人に与え続けている
これまでOperaの何を好きなのか、と聞かれたらいつもこう答えていました。
「Operaブラウザの先進的な機能そのものよりも、その機能を生み出したOperaの哲学をリスペクトしています」
もっと言えば、創業者ヨンの考えるWebの未来に心酔していたとも言えるでしょう。広報という立場だったため、ヨンの隣で彼がインタビュイーに熱く語るウェブの将来像について聞いたり、直接対話する機会が多かったことはとても幸運でした。
Operaの哲学とは次の言葉、Operaのビジョンに集約されています。
「最高のインターネット体験をすべてのデバイスへ」
個人的にはこのビジョン、すべての「人」へであるべきで、「デバイス」なんて媒介にすぎないんじゃないのかと思ってますが。。ともあれ。
Operaはより多くの人々にWebの力を与えるべく活動しており、Opera Japanにおける私もその信念で活動していました。
Operaは技術的にもポジション的にも特定のプラットフォームや陣営に依存せず、自由でした。そして、一つの信念のもとにブラウザのことだけをひたすら考えることのできる強固な組織だったからこそ、多くの国の多くのデバイスへブラウザを搭載することができました。事実、プアなネットワーク環境にも、チープな端末にも、そして障がいのある人にも使いやすい多種の操作形態を提供することで、Operaはインターネットをフル活用できる人口を増やしたのではないかと考えています。
「インターネット体験」がもたらすもの
私の言葉では「インターネット体験」を「Webの力」と表現しますが、これは何であるか。
私は、インターネットは世界中のあらゆる人々が自由に使うことができる知のインフラであるべきだと考えています。すべての人が平等に情報を受信し、発信する事ができるインフラです。
「情報を受発信出来る能力を、一人でも多くの人に提供する手助けをしたい」
インターネットを通じて多くの可能性/選択肢を知ることは、多くの人々を幸せにすると私は信じています。これが私がOperaに心底コミットしていた一番の理由だったように思います。ブロードバンド先進国の日本においても、いち早く携帯やゲーム機など身近なデバイスにブラウザを組み込む事で、インターネットを利用しやすくなった方の増加に貢献できていたのならば、様々な努力もすべて報われる思いです。
理想論ではあるけれど。
一方で「Webは多くの人を幸せにする力がある」なんて性善説がすぎるし理想論、といった意見もありました。Operaはちょっと宗教的だとか言われたこともあります。
そのような意見を言われたときに思っていたことは一つ。「ベストを目指さなければベターにもたどり着けない」でした。道具の使い方は人間次第。だけれども、道具を使える人が限られている不公平をなくすことがまず最初、と信じてやっていました。
セキュリティのことは、それを考える専門家が社内外にたくさんいたし、それを信じると。私がやるべきはOperaの良さをもっと多くの人にわかってもらい、いろんなデバイスでの普及を進めインターネットの便利さを多くの人に提供すること、と信じてやっておりました。
20代のほとんどをかけて、スキルも経験も英語力もないまま熱意だけでがむしゃらにやってきたことのすべてを誇りに思っています。特にOperaファンの皆様には感謝してもし足りません。私は多くのOperaファンの方々とは好きなポイントがかなりずれていたのではないかと思います。ブラウザ自体の機能の詳細に関しては、私なぞ足下にも及ばないほどお詳しいOperaファンの皆様に、「中の人」としてON/OFFから多大に支えてくださったことを大変うれしく思っています。
そして、電子書籍へ
と、暑苦しいOperaへの思いを語ったところで、なぜ今電子書籍に心が向いているのかをお話しします。
「情報を受発信出来る能力を、一人でも多くの人に提供する手助けをしたい」
電子書籍も情報へアクセスできる人を増やす媒体であると思っているからこそ、今そちらに興味が向いています。軽く見やすい専用端末+安価で入手しやすいコンテンツが揃うことによって、小さな文字を読む事が辛い人にも、目が見えない人にも、読む時間がなかなか取れない人にも、情報をこれまで以上に自由に受信できる媒体になる可能性があるでしょう。
加えて、今まさに業界の勃興期であることが楽しくて仕方がないのです。ユーザにとって真に使いやすい国内電子書籍市場を立ち上げるには、既存の出版業界の慣習にウェブの業界の知識をうまく融合させることが必要です。「電子化」には多分にウェブの技術やノウハウ(CRM、ソーシャルリーディング、ON/OFFでの著者とのコミュニティ、コンテンツマッチ広告など数え上げればキリがありません)を活用できるところがあります。
今このタイミングでウェブ業界から飛び込んでおけば面白い世界が見えそうだ。これが一番大きな転身の理由です。
実際のところ、現時点では何人かの方が私の活動をおもしろがってくださって、コンテンツを提供してくださるお話がついている程度です。コンテンツを、そしてその著者をどのように売っていくべきか、まだまだやるべきことは山積み。ですがそれが楽しくて仕方ないという、とても幸せな状況です。
というわけで、今後は電子書籍のプロデュースや業界ウォッチングと、これに大なり小なり関係するお仕事をしていこうと思っております。どうか皆様、今後ともごひいきに。